ジェフ便り

【選手からの便り】~2人の『山口』選手~

【選手からの便り】~2人の『山口』選手~

2015年03月27日 12:56 by akanuma_keiko
2015年03月27日 12:56 by akanuma_keiko
 
 
昨季限りで2人の『山口』選手がジェフユナイテッド千葉から去った。1人は昨年の12月25日に現役引退を発表した山口慶氏。そして、もう1人は昨年の12月8日に契約満了が発表され、12月18日のJPFAトライアウトを経て今季から京都でプレーする山口智選手だ。

山口慶氏は気の利いたポジショニングでチームメートを助けるプレーが持ち味だった。決して派手さはないが堅実で、インタビュー取材の際の話しぶりも決して雄弁ではないが言葉数が少ないわけではなく、言葉をじっくりと選びながら話して考えや気持ちを伝えてくるタイプだった。
シーズン中の負傷が長引いて思うようにプレーできない日々が続き、復帰したのちの昨年の9月のことだった。千葉の天皇杯準々決勝進出で準々決勝以降用の天皇杯のプログラムのキャプテンインタビューをした際、J2リーグ戦の出場機会が少ない選手が多く出場した3回戦・柏戦をスタジアムで見ていてこんなふうに感じたと言っていた。
「自分自身のアピールもありますし、勝ちたいという欲はすごくあったと思うんですよ。もちろん柏になかったわけじゃないですけども、それをはねのけてやれるだけのパワーがあったと思うので。すごくいいものを見せてもらったなという感じでした。僕はやっと練習に復帰した頃だったので。勝ったからかもしれないですけど、ああやって必死になってやっている姿を見て、自分は怪我明けで戻ってきてこういうふうにやらないといけないなというのを思いましたね」

だが、今年の2月22日の山形とのトレーニングマッチの前に引退セレモニーがあり、囲み取材があった時、前述の発言から引退を決意するまでの葛藤を聞くと、こう答えた。
「いや、葛藤はあんまりなかったですね。正直、その頃にもちょっと引退を考えていたのもありました。怪我が治るか正直分からないところがあったので。でも、試合に対する思いとかはそういうのはずっと変わらず、最後までやれたと思います。『別にもうやめるからいいや』とか思ったことはなかったですし、どちらかというと最後までやりきりたいという思いが強かったです」
名古屋時代に長年付けていた『背番号13』に愛着があったようで、千葉でも加入1年目の2010年は背番号6だったが、その後は『背番号13』をつけて引退。前述の囲み取材で筆者が「プロ生活が13年年間というのも…」と言うと「『おまえ、狙ったのか』とよく言われますけど、そういうわけでもなく、選手生活の中で何度も『ここまでか』と思う時もありました。長いようで短いサッカー人生だったと思いますけど、よくやったと思います。僕のサッカー人生はずっと試合に出ているシーズンがほとんどというわけではなかったですけど、そんな中でも試合数を徐々に伸ばしていったので」と話した。取材の最中、山口慶選手はとてもすっきりとした感じの笑顔だった。

山口智選手は常に雄弁に自分の考えや思いを語る選手だ。自分に厳しく、チームメートに対しても「やれるはず。やらないといけない」という思いからプロ選手ならば当たり前というレベルを要求していた。だからといって、一方的に自分の考えを押し付けるわけではなく、「どう思う?」「考えがあるなら言って」と若手選手の意見も聞くタイプだった。
だが、選手がやるべきことをやれず、チームが思うような結果を残せない時、試合後の山口智選手はダメ出しをするような言葉を多く口にした。だが、それはあくまでも「そうさせられなかった自分にも責任がある」と考えたうえで、時には「その選手がどう思っていたか分からないですけど」という前置きがあったりもした。だが、記者は原稿の文字量に合わせてそういった部分をカットしてしまいがちだ。発表媒体や記者によっては、千葉の甘い体質とそれに反発する山口智選手という構図を強調したいがために、山口智選手の厳しい言葉ばかりをわざわざ選んで記事を作成しているのがうかがえたこともあった。
そういったものを見聞きしたチームメートがいろいろな考えを持つことを、山口智選手自身も感じていたところがあったと思う。山形に0-1で敗れてJ1昇格を逃した昨年のJ1昇格プレーオフ決勝後の取材エリアで、筆者が声をかけると山口智選手は「今日の試合を見ていて皆さんが分かるように、戦っていないですよね」とまず話したあとで、「今日の試合はもちろん大事ですけど、常日頃やっていることが出ると思いますし、そこができていない部分はできていないまま出る。そこは自分の未熟さだと思うので、そういうのも含めて何とかできなかった自分が悔しいですね」と自分を責めた。そして、そのあとに記者の質問に答えながら、チームやチームメートの問題点を語った。その中には「すごく厳しいことを言うかもしれないですけど」というようなチームメートへの要求もあった。

筆者が攻撃面について聞くと、「どうでした?見ていて。そのまんまだと思うんで(苦笑)。僕らが言うと、なんか文句みたいになっちゃうから」と言ったあとで「当事者ではないので、当事者がどういう視野を持っているか分からないんですけど、そこをもっとチームとしてやっていかないと」と攻撃陣に対して自分が感じたことや改善策と思われることを口にした。守備面についても「負けたから文句みたいになっちゃうので嫌なんですけど」と言いながら、失点シーンが練習でできていなかったことそのままが露呈していたことを明かした。そして「試合に出られない選手の分、出ている選手がその思いを持ってやったのかというのもある」とも語った。Jリーグ史上初の高校生Jリーガーだった山口智選手は、20歳になるかならずの時から「試合に出ていない選手はクラブに言いたいことがあっても言えないから、試合に出ている選手が言わないといけない」という考えの持ち主だった。

取材の最後に山口智選手は「あんまり文句みたいに書かんといてね」と言った。豊富な経験に基づく考えによる言葉を文句と受け取るかどうかは、その言葉の聞き手の受け止め方次第。山口智選手への取材は記者の見方や考え方が逆取材で試される場でもあった。

reported by 赤沼圭子

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