【写真】2013年２月10日の新加入記者会見でカメラマンのリクエストに応じてジャイール選手と一緒にポーズをとり、満面の笑みを見せるケンペス選手。
2014年10月19日の天皇杯準々決勝・Ｃ大阪戦の試合後のことだ。試合は田代真一のゴールで千葉が１－０で勝って準決勝進出を決めたのだが、2012年にはＣ大阪に在籍したケンペス選手の話を筆者ももちろん聞きたかったし、当時のＪ‘ｓＧＯＡＬでは天皇杯も試合後の両チームの選手コメントを掲載していたため、Ｊ‘ｓＧＯＡＬのＣ大阪担当者に千葉の選手のコメントをまわすという協力をする意味でもケンペス選手のコメントを取ろうした。ケンペス選手と一緒に歩いていた通訳のマルコ・グスタボさんに「ケンペスの話を聞きたいのですけど、大丈夫ですか」と声をかけ、マルコさんがそのようにケンペス選手に伝えると、ケンペス選手は筆者の顔を見るなりニコッと微笑んで日本語でこう言った。
「久しぶり。元気？」
当時の筆者は現在よりも練習取材に行く回数が少なかったのでそう言ったのかもしれないし、筆者のそばにはＣ大阪番の記者もいたから、もしかしたら筆者のことを2012年に取材を受けていたＣ大阪番の記者と一瞬勘違いして言ったのかもしれない。そのどちらかはわからなかったが、そんなふうに声をかけてもらったことは筆者にはとても嬉しく、記者冥利に尽きることでもあった。
千葉サポーターならばよくご存知のエピソードが表わすように、ケンペス選手はチームメイトをとても大事にする優しい選手だ。例えば、2014年のＪ２リーグ第５節・熊本戦で井出遥也選手は熊本のＧＫの畑実選手と接触プレーがあり、畑選手が負傷して井出選手は退場処分となった。その際に井出選手が熊本の選手に詰め寄られると、ケンペス選手は井出選手を守るようにそばにやってきた。また、そのシーズンの最終節では森本貴幸選手（現・川崎Ｆ）が讃岐の選手との接触プレーで倒れて脳震盪を起こし、ピッチの中まで救急車が入って救急搬送されるアクシデントが発生した。その時に森本選手に代わって出場したケンペス選手は右手と左手の人差指だけを立て、森本選手の背番号の『11』を示すパフォーマンスをやって見せ、試合後に「彼に捧げるゴールだったので、シュートが決まって本当によかった」と話した。対戦チームの選手から自分がファウルを受けた時よりもチームメイトがファウルを受けた時に怒るような選手だった。
【写真】2013年２月10日の『2014サポーターズフェスタ』でのサイン会でサインを書いているケンペス選手。
冒頭のエピソードからもわかるように、ケンペス選手は取材陣にも優しかった。敗戦のあとは取材を受けたがらない選手、取材を早く終わらせてほしいことを匂わせるような言動の選手もいるが、ケンペス選手はきちんと対応してくれた。話をしている時に目が合うとニコッと微笑む時もあるのが印象的だった。また、練習が終わって帰宅する際に選手は取材陣がいるプレスルームを通るのだが、取材陣が「お疲れさまです」などと声をかけると、ケンペス選手は取材陣に向かって微笑みながら「お疲れー」と日本語で言って帰ることもあった。ある日にはケンペス選手のご家族がユナイテッドパークに来ていて、ケンペス選手の長男もクラブハウスの中に入り、ケンペス選手と一緒に帰る時に取材陣から「お疲れさまです」という声をかけられると、長男もケンペス選手の真似をして「お疲れー」と日本語で言って帰って行ったこともあった。ケンペス選手が日本に馴染もうとしてそんなふうにしているのを知ってか知らずか長男が真似をしている姿はとても微笑ましかった。
【写真】2014年６月19日のゲーム形式の練習で、同じチームの山口智選手（当時）と何か話をしている様子のケンペス選手。
2013年シーズンには38試合に出場し、22得点でＪ２リーグ得点王になったケンペス選手は、そのシーズンの第６節・北九州戦（スコアは６－１）、第32節・福岡戦（スコアは４－３）、第37節・熊本戦（スコアは６－０）の３試合でハットトリックを達成。前述の北九州戦では１試合に４ゴールを奪う爆発力を見せた。強靭で逞しい体格もあってフィジカルが強く、プレーもパワフルで豪快というイメージのあるケンペス選手は、とても明るく朗らかで気さくな人柄だった。だが、筆者がケンペス選手を思う時に真っ先に頭に浮かぶのは、やはり柔らかく優しい微笑みを浮かべている姿だ。
ケンペス選手をはじめ11月28日の航空機の墜落事故で亡くなられた方々が安らかに眠られて平安であることをお祈りし、ご遺族の方々に哀悼の意を表し、お悔やみ申し上げます。そして、負傷された方々の一日も早い回復をお祈りいたします。
reported by 赤沼圭子
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